私の可愛いアリーセ様。
このヴェインドリームがレッチェルドルフ家にやってきてから、もう二百年以上になります。
レッチェルドルフ家は多くの有能な当主と、それと同じだけの暗愚な当主を輩出し、私は時に感謝され、時に疎まれながら、彼らに仕えて参りました。
私はレッチェルドルフの守護夢魔。この家に愛を捧げるもの。
ですがレッチェルドルフの家系につらなるものは、もはやアリーセ様ただ一人です。
アリーセ様を失えば、レッチェルドルフ家も、私の存在意義すら失われてしまうのです。
だから、私は禁忌を犯しました。
幼いアリーセ様をご両親から引き離し、念入りな刷り込みによって子供としての精神を殺し、その上に今のアリーセ様の人格を植え付けたのです。
人間の知能はその脳に御座いますが、多くの人間はその能力の数割しか使わずに死んでいきます。私の呪いを受けたアリーセ様は、もはや数学力や記憶力は常人では及びもつきません。
母親のぬくもりも、子供らしい遊びや思い出もなく、アリーセ様は君主としてお育ちになりました。
金融産業に目を付けたのは慧眼でございましょう。もはや古き帝国の経済界はアリーセ様の言葉を無視できるものはなく、その一挙一動に意味を推測されるほどです。
ジャスリーさまにチェスでお勝ちになられたとき、私は興奮の余り消滅してしまうかと錯覚するほどでした。
次は、どうかお世継ぎを。レッチェルドルフ家のご再興を。閨を楽しめるよう、リリスの呪いもかけております。今もお美しいですが、将来は帝国一の美貌の姫となりましょう。
ああ、私の可愛いアリーセ様。
私の可愛いお人形。
永遠に、この家と私の狂気から逃がしは致しません。