[9] 投稿者:ドイツ第三帝国 投稿日:2011/09/05(Mon) 10:01 No.187 Edit
選別プログラム。
アーネンエルベが考案した、収容所に少年少女五十人を閉じ込め、武器を与え、互いに殺し合わせるプログラム。
一体何の意味があるのだろうか。
しかしフィリオリにはそんな疑問について考える余裕はなかった。
「死なないで」
自らを守る為に傷を負った少年に、包帯を巻きながら語りかける。
腹部に何発も銃弾を受けている。血が止まらない。……おそらく助からない。
「死なないで。ディートリヒ」
「ああ……」
少年は少女の為に、激痛に堪え、微笑みながら言葉を紡ぐ。
「フィリオリ、泣かないで……」
少年が発声できたのは、たったそれだけ。死に行く少年と生きている少女は手を握り、別れを惜しむ。
「好きよ、ディートリヒ……」
噎せ返るような血の匂い。散乱する死体。涙も枯れ果てた血まみれの少女。
「プログラム終了。生存者、フィリオリ・エルクリス。七番ゲートまで移動せよ」
スピーカーから事務的な声が聞こえる。
少女は聞こえていたが、すぐには立ち上がらなかった。最後に少年の衣服を整え、キスをして最後の温もりを感じる。
「プログラム終了。生存者、フィリオリ・エルクリス。七番ゲートまで移動せよ」
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[10] 投稿者:ドイツ第三帝国 投稿日:2011/09/05(Mon) 11:39 No.188 Edit
よろよろと。疲労と打撲による痛みを堪えつつ、フィリオリは壁伝いに歩く。
指定されたゲートは開いており、太陽の光が差し込んでいる。
あれこそが希望。自らを守るために死した少年に報いるためにも、少女は生きていかねばならない。
恐怖と狂気の空間から少女は生還を果たした。
そんな彼女を待ち受けていたのは、銃口を向けるアーネンエルベの兵士たちだった。
銃の恐ろしさは身を以て知っている。一度照準を合わせられたら、もう逃げられない。
「どうして……?」
「目障りなのだよ」
たったそれだけの返事。
「寂しい……」
フィリオリは胸に手を当てて、目を閉じる。
恋人のキスを待つ少女の様に。すべてを悟り受け入れた聖者の様に。
もう涙は出なかった。
そして数十発の銃弾をその身に受けて、検死すら不要の絶対の死に誘われた。
「こんにちは」
痛くない。寒くも暑くも。ふわふわとした不思議な感覚。
「こんにちは、フィリオリ」
気がつくと、少女は瀟洒な庭園の中、ティーテーブルの椅子に座っていた。
テーブルの向かい側には不思議な服を着た女性。
「こんにちは。……ここは天国なのでしょうか」
「いいえ、私はジャスリー。夢魔です」
「……夢魔?」
「はい。夢魔。悪霊や幽鬼とも呼べる存在です。
貴方の高貴なる魂は、天上で歓迎されるでしょう。安息の後に大きな魂と融合し、すべての記憶を失って転生を待つことになります。
ですが、もし貴方が望むのなら。
その姿と記憶をとどめ、未練を為したいのなら。
貴方を私の眷属として、夢魔として迎えましょう」
「悪魔の誘惑ですね。成仏するか、幽霊になるかということでしょうか」
「はい」
「……それなら、答えは決まっています。彼と約束しました。生きて幸せになると」
「そう。ではこの契約書にサインを。
歓迎します、テリブルドリーム。ようこそ、闇の世界へ」