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無名箱異伝:フォールンドリームの場合

75:くらるべるーん : 2011/06/02 (Thu) 20:41:44

 ネルウェーの唯一の活火山であるタフクーン火山。
 月の光に照らされたその火口に、その竜はいた。
 竜の名は<ザン・ビエ>。北方八竜の一体にして、炎のディスコード・ドラゴン。
 火山災害の具現化した存在。かつて噴煙により世界を闇で覆い、西方の帝国を衰亡の一歩手前にまで追い詰めた忌むべき存在。
 ドラゴンフライをさらに一回り大きくしたその巨体は、魔王軍の討伐部隊を壊滅させた後、悠々とマグマに身を沈め傷を癒している。


 その竜を見下ろす位置に、一組の男女が転移した。
 それは冷徹なる黒衣の美少年と、小悪魔のような黒衣の美少女。
 エスレーヴァに覇を唱える魔王ドロレスと、その愛妾たる夢魔フォールンドリーム。
「これが転移か。なるほど、便利だな」
「くすくす。あどみん族達の目を盗むのは大変なのよ?」
 闖入者に向かって炎竜が咆哮する。聞くもの全てを恐慌状態に陥れる竜の咆哮。
 だが、魔王と夢魔は涼しい顔でそれを聞き流す。
「喚くな」
 魔王の呟きを聞いたのか、炎竜は二人に非礼の報いを与える。
 それは、<ザン・ビエ>の口から吐き出される灼熱のブレス。
 地獄の業火。あらゆるものを灼き尽くし、無に還す原初の炎。速い。目では追えない。
 生身の人間では避けられまい。瞬速に秀でた戦乙女か、フェンリスウルフの上級闘士以外には。
 仮に直撃を避けたとしても、その熱量で蒸発することは間違いない。
 しかし、魔王は生きている。その腕に愛妾を抱えて悠然と。
 <ザン・ビエ>の炎が灼き尽くしたのは虚空のみ。
「では始めようか」
「ご褒美を下さいね。魔王様」
 夢魔が歌う。竜の伝承を。炎竜の性質を暴き出し、か細い撃破可能性を紡ぐ歌を。
 もたらされたのは<赤き真実>。赤き歌詞。


【全てのディスコード・ドラゴンは不滅】
                            【物理破壊は不可能】
                    【炎竜<ザン・ビエ>の場合】
     【唯一の破壊方法は】
            【魔法攻撃による全身凍結】


「なるほど、確かに。人はお前に何も出来ないだろう」
 不滅にして絶対の理に護られた。ディスコード。そしてその分霊たる炎竜。
 加護された肉体に、鋼よりも硬い竜鱗。
 唯一の対抗法は魔法攻撃。
 故に人類は絶対に<ザン・ビエ>を殺せない。
 この世界の人間は魔法を使えないから。
 ネルウェーの凍土に吹き荒れる嵐でさえも、炎竜を凍らせることはできないから。
 けれど、けれども。
「けれど我は魔王。残念ながら人ではない」
 魔王が夢魔を引き寄せ、軽く口づけをしてから耳元に囁く。
「フォールンドリーム。堕ちたる夢。運命の少女。我が盟約者よ。時は来た。今まさに時は来た。盟約に従い、我は争乱の門の開門を要請する!」
「仰せのままに。魔王様」
 フォールンドリームが手を振るう。ただそれだけで、空間が歪み、裂ける。
 風景が歪む。あたかも二人の側だけが、別の世界であるかのごとく。
 見えざる門が開かれ、場に力が満ちる。この世界では存在しないはずの力。それは魔力。それは魔法。理の外の力。不条理の理。ディスコードとは異質の、そして同じ階梯の力。
 高らかに魔王が詠唱し、夢魔が歌う。満ちた力は言葉によって意味を与えられ、そして現世に顕現する。
「暗黒の氷の刃、全てを飲み込め!エターナルフォースブリザード!!!!!!!」