成立
パロンシュレイヒ教が成立し、世界宗教として普及を始めた時期、シェイフィナリア教皇領と同じカイバー地域に属するアレイスター諸島では民間信仰として蛇を祖霊とし、コカインの幻覚による祈祷を主としたシャーマニズムあるいは魔女信仰が土着の宗教として存在していた。
フェナス人の入植とともにパロンシュレイヒ教が持ち込まれたとき、原住民と入植者との間で当然のように宗教対立が発生したが、時代とともにパロンシュレイヒ教の教化が進み、魔女信仰は日陰に追いやられた。不吉な蛇を祖霊とする信仰に対する偏見は強く、疫病などの社会不安が発生すると、パロンシュレイヒの信徒達はしばしば魔女狩りなどを行った。
だが近代に差し掛かり、アレイスター諸島同盟が国家として形成し始めた頃、この民間信仰は恐るべき突然変異を起こしたのである。
その宗教はパロンシュレイヒ教の教義を取り込み、悪魔信仰（サタニズム）として復活した。
「リリスの道」と名乗ったそのカルトは女性だけで構成され、蛇、魔女、麻薬、娼婦、オカルトなどの要素を取り込み、ナルヴェの契約者の奴隷化と破滅と「女性による世界支配（富、知識、権力の独占）」を目的に掲げた。
コカインの栽培はフェナス入植後は殆ど廃れていたが、リリスの道により大規模栽培と流通が行われ、アレイスター諸島の社会システムは徐々に侵食されていくのである。
教義
リリスの道の教義はインターネット上に流出した黒ミサの映像から垣間見ることができる。
私たちは堕落と腐敗の使徒です。
私たちはありとあらゆる形の腐敗と堕落と破滅を世界にもたらします。
戦争の惨禍、麻薬の害、幼児虐待、性的暴力、貧富の差、殺人と悪逆。すべて私たちが悦び、望むものです。
私たちは心の中に蛇を飼っています。いいえ、その蛇こそが私たちの正体。圧倒的な闇と、そして止むことなき堕落を望む蛇です。
蛇は私たちに美しさを与えます。美しくなりましょう。
蛇の囁きに耳を傾け、ありとあらゆる快楽を楽しみましょう、美しい身体をもはやそれなしには一時もいられない体にしてしまうのです。
人の心に堕落の種を蒔き、それを大きく育ててヴァレフォールを破滅させましょう。──魔女長ヴェロニカの祈りの言葉
この映像は今まで無名だったリリスの道の存在を知らしめ、各国では次々にリリスの道にカルト指定を行った。また安武皇国はコカイン流通とカルトの関連を追及した。
アレイスター諸島同盟自体も相次ぐ戦乱の中で国家分裂し、強国としての地位を失ったが、いくつかの国では（特にパロンシュレイヒ教圏にて）リリスの道が浸透しており、世界の麻薬流通にも未だ強い影響力を持っていると噂される。
現在のリリスの道の本部はリルバーン帝国の古都マファミアに存在する。
リリスの道の信徒は自らを人間ではなく、リリス（魔女）というもっと素晴らしい存在に生まれ変わったと自称する。彼女たちは位階に応じてお互いを姉や妹と呼び合う。また、入信するためにはナルヴェとの契約を破棄し、死後地獄に堕ちることを受け入れなければならない。
信徒が自らサタニストであるとカミングアウトすること殆どない。各地のリリス教団も表向きは友愛サークルやオカルトを名乗っている。
