veirosが何か言いたげにこちらを見ている

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鎖と夢

ヤードグラード。
連邦共産党党中央委員会。
無機質な廊下。
罪人の様に手錠をはめられて先導者についていく私。
側には護衛という名の逃亡防止用の兵隊さんが五人ほどついて歩いている。
逃げ出すそぶりでも見せたら恐らく命は無い。
粛正と暗殺、密告が渦巻くこの国で私のような危険人物が生きながらえるのは難しい。
そもそも大破壊の起こったこの世界では、捕虜に食べさせることすら勿体ない事だ。


先導者が目的の部屋の扉を示す。
兵士が軋みを上げて両開きの扉をあけると、中には政治家特有の黒い思念が渦巻く空間が広がっていた。
ヤードゴニエ共産党の要人達が舐めまわすように私を見る。見知った顔は数人だった。
この数年の間に上層部は入れ替わったのだろう。兵士が私の手錠を外してくれた。
「座りたまえ」
私はまるで査問にかけられ糾弾される人間のように中央の席に座った。


「結論から言おう。ディルタニア連邦はリルバーン共和国を解体。周辺区域を統合し新たにエステルプラッテ社会主義共和国を建設することに決定した」
「……」
「喜んだらどうかね、カザン首相。君の故郷が独立できるのだよ」
「……私は帰れるのですか?」
「勿論だ。君とエステル共産党の指導の下でエステルプラッテは大破壊から再建し、ディルタニア連邦の強固な一員として国際社会に復帰するだろう」
「私に傀儡政権の首班になれと仰るのですか」
「君に拒否権はないことはわかっているはずだ」


エステルプラッテはロストアルテミスとディルタニア戦争、そして大破壊によって引き裂かれた。
宗教テロによって重症を負った私は死んだことにされ、今日までヤードゴニエに軟禁されていた。
情報統制がされたこの国では、故郷の現状は人々から漏れ聞いたことくらいしかわからない。
ただ彼らの言うとおり、私にはそもそも選択の余地がないのだ。


「行くのかね?」
イワンが私の髪を撫でながらそう言った。
「ええ、明日にはお迎えが来るわ。来週にはカザン書記長になるみたい」
「私に何かできることはあるかい?」
「うーん、特に。……そうね、じゃあ約束しましょう」
「約束?」
「ええ。そうね、もしお互い生きて再会することができたら、その時は結婚しましょう」