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無名箱SS

20 名前:エラキス共和国 2011/04/09 (Sat) 21:36:16

エラキスは内戦の傷を徐々に回復している。首都セヴェリアでは瓦礫が撤去され、新しい家が建ち、商店に品が増え、鉄道も利用者が増え、かつての賑わいを取り戻しつつあった。
そして、郊外に大きな工場が建設された。新しい職場が出来たと市民は喜び、さらに稼げると資本家も喜んでいた。

操業していない工場はとても静かで、足音がコンクリートの床によく響いた。
「すごいな。これでわが社も国外向けの製品が作れるよ。」
ヘラルド・カルリオンは誇らしげに自分の工場を見渡している。
工場の中はずらりと工作機械が並んでいる。現代の産業には欠かせないものだ。
「ついにお前のところも海外進出だな。」
「フェリペ、君が大量に買い付けてくれたお陰だよ。しかし、なんとも言えん気持ちだ。」
誇らしげな顔から一転、ヘラルドは困ったような、笑いたいような表情を浮かべる。
目の前の旋盤はクラルヴェルン製。その脇に置かれている潤滑油も同じ。
「クラルヴェルンの機械で作って、クラルヴェルンに売る。何もかも帝国頼みじゃないか。せめて油くらい国産を使いたいよ。」
ついついため息が出てしまう。
「帝国の潤滑油は国産よりいい。機械の寿命も延びる。それに、天才が設計しても、それを実現できる精度が出なきゃ意味が無い。精神だけで国は動かん。」
フェリペ・エリサルデはさらりと現実を言う。
「悔しいなぁ。」
「今は仕方ない。一部の貿易をバーターでやっているくらいなんだから。この旋盤だって、タングステン鉱石と交換したんだぞ。」
実際、内戦が終わって間もないエラキスの紙幣は信用が低く、バーターの方がマシだった。
「復興はまだまだだな。」
「ああ。」
「でも、俺は諦めない。絶対に。帝国を超える物を作ってみせる。」
「その時は私が世界中に売りさばいてやるよ。」
「頼もしいね。」
「さぁ、飯でも食いに行こう。そこで未来を語ろうじゃないか。」
「いいね。どんな店なんだい?」
店名を聞いたとき、ヘラルドは苦笑してしまった。そこは、有名なクラルヴェルン料理店だった。

22 名前:べいろす・くらるべるん[・_ゝ・] 2011/04/10 (Sun) 23:13:10

(……ここはどこだ?)
 ヘラルド・カルリオンは呆然として目の前の光景をみやった。
 首都セヴェリアのどこかであることは間違いない。
 しかし気がつけば自分の工場の区画ではなく、首都の大部分を占める貧民街に立ち尽くしていた。
 視線が痛い。
 居心地が悪い。
 自分は資本家であり、着ているスーツも場違いなものだ。
 明日をも知れぬ貧民達。内戦の傷跡は未だ治らず、毒ガスで視力や声を失ったものや、同じ国民同士で恨みを抱くものも数多い。
 大人達に仕事もなく、子供達に学校もない。すべて長い内戦が破壊してしまった。
 ブルゴス総統の抑圧的な政治は各国から批判の目で見られるし、ヘラルド自身も疑問を抱くことも多い。だが、この国の現状ではやむを得ないだろう。
「ふーん……。貴方なの」
「誰だ?」
 若い女の声に振り返る。
 旅行用のトランクと、黒衣の少女。ここの貧民でないことは直ぐに解った。人間にしては美しすぎる。
「……君は」
「ふふ。やっぱりそうね。いいわ、私が助けてあげる」
 その姿より数段大人びた立ち居振る舞いで、少女はつかつかと近づいてくる。
 危険だ。理性がそう囁いた。
「失礼だがレディ。君に助けて貰うほど僕は困ってはいないよ」
 一歩後ずさりつつ、答える。少女は気配を察したか、歩みを止めた。
「私はソフィーヤ。夢魔よ。
 貴方のことはなんでも知っているわ。
 名前はヘラルド・カルリオン。カルリオン社の社長。
 奥さんはイサベルっていう可愛い人だったけど、内戦で死んじゃったのよね」
「!……」
「そんなに、怖い顔をしなくてもよいでしょ。私だって内戦で盟約者を亡くしたのよ」
 そっぽを向く夢魔。少々の罪悪感を感じつつカルリオンは答えた。
夢魔ソフィーヤ。じゃあ君は、どうやって我が社を助けてくれるんだい?」
「このトランク一杯に、黄金が入っているの。これを担保にしてお金を借りて。そうすれば次の資金繰りに間に合うでしょ?」
 確かに手形の償還日が差し迫っていた。工場が差し押さえられる前に、なんとかしなくてはならない。もちろん当てなどなかった。
「ありがとう。君の援助は有り難く受け取っておくよ。でも、その引き替え条件は一体何なんだい?」
「貴方の絶望を見たいの」
「絶望?」
「ええ、絶望。貴方の希望のすべてが失われるところが見たい。そして、失意の貴方を私が死ぬまで慰めるの」
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