月明かりの下のお花畑。
咲き乱れる可憐な花々に囲まれるように人影が立っていて。
ドレスをまとったその後ろ姿を見て、私は息を呑む。
あまりの驚きに、足が震え、声が出ません。
呼吸すら苦しくなるような金縛りに遭ったような状態で、それでも私は、声を張り裂けんばかりに叫びました。
「ご主人様!」
その人が振り返ると、懐かしい顔が私を見つめて……
そして強い風が吹いて、花びらを舞上げ、私の声をかき消す。
……。
「……夢、でしたか」
そう、それは夢。目が醒めれば、そこは物質文明の世界ルヴァース。
総督様は私のために部屋を用意して下さいました。
案内された部屋は城の一角で、窓から都市を一望できるところ。
でも、私の元いた世界とは人の数が段違い。
世界は広く、人を探すのはとても大変だって、総督様も仰っておりました。
でも、それでも。
「……感謝します。この運命に」
ベッドに横たわって独り言。クルーエルドリーム様も総督様もとてもお優しい方。あの人に会えるかもしれないという希望が私の胸を満たす。
あの方が私の前からいなくなって、どれほどの時間が経つのでしょう?
「あなたは……元気でいますか」
私のご主人様。
悪魔にして吸血鬼。
恐ろしい方。
私のことを太陽と呼んで下さった人。
陽光を浴びることを許されない吸血鬼にとって、太陽という形容は最高の好意の言葉。
辛いこともあったはずなのに、思い出はとても幸せなものばかりで。
「アンネリーゼ……様」
涙が溢れてきました。
クルーエルドリーム様にお手紙を書かないといけないのに。